少し前のことになりますが、通勤中のある出来事について記したいと思います。
ある日の朝、佐藤は自家用車にて、交差点での信号待ちをしておりました。
佐藤がいたのは片側一車線の住宅街の道路で、信号機から3台目に位置し、左右の通りは片側二車線の大きな道路、というような状況です。
なんということのない、いつもと変わらぬ通勤風景の中で、大きな通りの右側から1台の車が左折してきました。
つまり、佐藤から見て対向車線に車が入ってきたという状況です。
その車は、本来であればすんなりと佐藤の対向車線側に入り、そのまま進みたかったのでしょうが、そうもいきませんでした。
なぜなら、佐藤から見て斜め右、前方の対向車線には大型車が路上で停車しており、道幅がかなり狭くなっていたからです。
大きな通りから曲がってきた車からすれば、左折してすぐのところが大型車によって道幅が狭くなっている状態ですから、かなり慎重に、スピードを落として進んでおりました。
佐藤は、「あぁ、やっぱり雪で道が狭くなっていると危ないな。大丈夫かな。大型車の横を通過するには、かなりこちら側にはみ出さないと難しいかもな」などと思いながら見ていたのです。
そして、次の瞬間、佐藤はかなり驚きました。
思わず、えへふぇぇ~!?と、おかしな声が出てしまったほどです。
なぜなら、
大きな通りから曲がってきた車の、
運転席側の、
後部座席の、
ドアが、
全開だったからです!
半ドア状態でがたがたしているとか、そのような感じでは全くありません。
まるで羽を広げた鳥のように、豪快に、まぁもうそれ以上でも以下でもなく、他の表現ができないほどに全開で、後部座席のドアがバーンと開いていたのです。
佐藤は驚きと共に、車がそのまま先に進んでは大変なことになるとすぐにわかりました。
大型車をよけようとしている車は、いえ、大型車をよけようとしている後部座席の片側のドアが全開の車は、ドアのことなど全く気にしていない様子だったからです。
これは、裸眼視力が2.0の通称「佐藤eye」で運転手さんを見たので間違いはなく、その方は、大型車をいかにうまくかわすかというところだけが気になっているのは明らかでした。
もし、そのまま大型車をよけながら佐藤を始めとする信号待ちをしている車達の車線に寄ってきたとしたら、まず間違いなく、先頭の車両に全開の後部座席のドアがぶつかってしまいます。
そして、もしも、万が一、その方がその状況にすらも気づかないという信じられない状態であったり、そもそも後ろのドアが全開なことなど気にしないという鋼のメンタルの持ち主であったとするならば、その後は佐藤の車にも確実にドアがぶつかってしまうのです。
佐藤は、どうしよう、どうしようと思いながら、自身の車を路地に避難させるか、大声でドア全開のドライバーさんに教えてあげるか、強靭なメンタルには強靭なメンタルで対抗し、鼻歌でも歌いながら様子を見るか、迷っておりました。
その時です。
佐藤と同じ車線で信号待ちをしていた先頭車両の運転席の窓が開き、手が飛び出てきました。
そして、その手は、大型車をよけようとそろりそろりの運転をしているドア全開さんの、後部座席のドアを「えいっ!」と押して閉めてあげたのです。
その時、佐藤eyeが捉えたドア全開さんは、「はっ!」とした表情になり、バックミラーで後部座席を確認しているようでして、その後、勇気ある行動に出た先頭車両のドライバーの方に会釈をしてから大型車をかわしていきました。
すごいなぁ。
佐藤の感想はシンプルに、とても簡単でした。
まず、ドア全開なのがすごいです。
真冬のとてつもなく寒い朝に、ドアが全開であれば、冷気がびゅーびゅー入ってきて気が付きそうなものですし、まぁ、気温に関係なくドアの一つが開いたまま走っていたらすぐにわかりそうなものですよね。
わからないと、絶対にいけないと思いますし…。
にもかかわらず、まずは大型車をかわすことだけに全神経を集中させ、ドアのことなど微塵も気にしていないのは、すごいとしか言いようがありません。
また、そのドアを閉めてあげたドライバーさんの勇気と判断力もすごいなぁと思いました。
もちろん、そのままではまず最初にその方の車にドアがぶつかってしまったでしょうから、そのようにする以外は避ける術がなかったとも言えますが、それにしても咄嗟のその判断と実行力には驚くばかりです。
正直なところ、かなり微妙な間合いでしたので、本当に一瞬タイミングがずれただけで、うまくいかなかったのではないかと思います。(伸ばした手が空振りになってしまう可能性もありました)
その日は朝から驚きの光景を目にした佐藤でしたが、僅かな時間の中には、ある意味で鈍感とも言えるような強いメンタル、高過ぎる集中力、勝負所を間違えない判断力と勇気、そんなものが詰まっていて、大変勉強になりました。
日常の一場面の中でも、学びになる部分は多々ありますね。
さて、気づけばブログ内で「ドア全開さん」と呼んでしまっておりましたが、そのドライバーの方は無事に目的地へと辿り着けたのかどうかが心配です。
なぜ、あれほどまでに後部座席のドアが全開だったのか、いつから全開だったのか、全開だったことで落としたものはないのか、などなど、気になること、聞いてみたいことはありますが、どこのどなたかもわかりませんので、実現するのは難しそうです。
再びどこかでドア全開場面を見かけたら、すかさず話しかけてみたいものですが、そのようなことが起きては絶対にいけないでしょうし…。
皆様におかれましても、運転される際には、ドアだけではなく、お車全体の整備状況などしっかり把握された上で出発された方がよろしいかと思います。
また、窓から手を伸ばしてどなたかのドアを閉める際には、周囲の安全などを十分に確認してからにしましょう。
それでは。