ある日のことですが、佐藤、中央区にありますデパートの地下食料品売り場に行きました。
何か特段の用事がそちらにあったわけではなく、別の予定で近くを訪れており、少し時間があったため立ち寄ったのです。
実に美味しそうなものがたくさん並んでおりまして、思わずあれもこれもと買ってしまいそうになりましたが、あえて超軽装状態で出かけた佐藤はバッグも何も持っておりませんでしたので購入は見送りといたしました。
残念なような、でも、これはこれで良かったような複雑な思いでしたが、とにかく楽しい気持ちで商品を見ていたのです。
そんな中、佐藤は地下階の売り場の端にある通路に辿り着きました。
そこを目指していたわけではなく、たまたまそのようなところに出たのです。
通路沿いにはいくつかのお店が立ち並び、やや狭い廊下でしたが、その先にはまた広いスペースが開けているという、そんな場所でした。
佐藤はお店を見ながら歩き、そして、ふと通路の先を見た、その瞬間です。
なんと、女性の方が、バンッ!と大きな音を立てて回転しながら床に倒れ込みました。
一瞬、何が起きたのかわかりませんでしたが、これは大変だと思い、佐藤はすぐにそのまま廊下を走って近くに駆け付けました。
佐藤よりもさらに近くにいた方々は騒然となっており、何人もの方が集まってきて「大丈夫ですか?」とか「どうされました?」などと声をかけ、仰向けで床に倒れている女性の方を起こそうとしています。
佐藤の頭の中には、「119番通報」や「AED」や「お店の方を呼ぶ」などのキーワードが巡っておりました。
緊迫した雰囲気を感じつつ佐藤も現場に到着すると、女性の方はこう言ったのです。
「あ、あの、すいません…。エ、エレベーターに間に合わなくて…。お騒がせしてすいません…」
…。
……。
この瞬間、佐藤の中には様々な感想と思いがたくさん浮かんでまいりました。
どうしてそんなに急がなければならなかったのか、とか、心臓バクバク状態の時間を返してほしいとか、それにしてもそんなに激しく回転するものだろうか、などです。
ちなみに、その女性はお子さんや若年者ではなく、それなりのご年齢と思われる方であり、眼鏡をかけて手には荷物を持っておりました。
そして、その眼鏡がずり落ちてしまうほどの勢いでエレベーターのドアにぶつかり、まるでカウンターパンチが入って派手にKOされたボクサーのように回転しながら床に倒れ込むとは、一体どれほどのスピードで走ってきたのでしょうか。
何が何でもそのエレベーターに乗りたい、乗らなければ、絶対に負けられない戦いがそこにはある、という強い気持ちや理由があったのかもしれませんが、状況から推測するには、おそらくもう完全に間に合っていなかったような気がします…。
早めに諦め、安全で安心で確実な方法を選択した方が、ご本人も痛い思いをせず、また他のお客さんに心配をかけることもなかったのにな、と率直に思いました。
そんな中、ある方が「あの、頭を打ったと思うんですけど、大丈夫ですか?」と優しく声をかけたところ、転んだ方はずれた眼鏡を直しながら「え、えぇ、大丈夫です。あ、あの、確かに頭は打ちましたけど、大丈夫です…」と返答しておりましたので、大事には至っていないだろうと考え、佐藤はその場を立ち去ったのです。
それにしても、直前まで美味しそうな食料品や珍しいお酒を見て楽しんでいた佐藤からしますと、ものすごいギャップで一気に緊張した驚きの体験でありました。
その直後に冷静に考えてみましたが、どうして回転しながら転倒したのかなどは謎です。
佐藤が見たのは正面からではなく、横からでしたので、女性の方がエレベーターに間に合わなかったその瞬間は確認できておりませんが、通常であればドアが閉まって急に止まったりぶつかったりすれば、そのまま尻もちをついたりするのではないでしょうか。
それが、ぐるん!と、回転しながら転倒ですから、この点はとても不思議です。
もしかすると、最初からフィギュアスケーターの方のようにくるくる回りながらエレベーターに駆け込もうとしたのかもしません。
あるいは、何とか滑り込みたい一心でヘッドスライディングのような形になり、片手を思いっきり伸ばして突入したことにより回転してしまった可能性もあります。
あとは、これはとても恐ろしいことなのですが、もしかすると、エレベーターの中に乗っていた方が…、その…、ドン!と、そうです、想像したくもありませんが…、その女性の方を押したのかもしれません…。
そうなりますと、なぜそのようなことをしたのか、エレベーター内にいた方と回転しながら転倒した女性の方との関係は何なのか、という部分が気になってきました。
ひょっとすると、その女性の方は探偵であり、ある人物を追ってデパートに辿り着き、エレベーターの中にいるのを発見して急いで乗り込もうとしたとも考えられます。
で、あれば、その時の佐藤が取るべき行動は、デパ地下グルメをさらに見て歩くなどではなく、階段を使ってでもエレベーターに先回りし、その人物を追いかけることだったのかもしれません。
ただ、佐藤は完全なる一般人であり、いえ、むしろ現段階での身体能力やフィジカルコンディションは一般の方々をやや下回っていてもおかしくない状況(体型)でありますので、取っ組み合いなどになっても勝利できるという確信はなく、ものすごく小さな頃にすこ~しだけ習った空手が活用できるとも全く思えないのです。
と、いうことは、佐藤が誰かを追いかけたところで何かの役に立てるわけでもありません。
もしも、万が一、その人物に対して説得を試みろと言われれば、
「真剣な説得コース」とか、
「身の上話を用いての説得コース」とか、
「ややお笑いコース」や、
「感動的な話題を盛り込んだコース」だったり、
「佐藤のブログをご案内してみるコース」も含め、
様々な選択肢の中からご希望に応じてまずは対話をしてみるということもできたかもしれませんが、とにかく力で押さえ込むなどは難しいものと思われました。
それであれば、転倒した女性の方より追っている人物の特徴などをお聞きした上で追いかけ、せめてどちらに逃げて行ったかなどの情報提供をするのが良いのではないかと考えたのです。
佐藤は「ねぎキムチ」なる大変美味しそうなものを視界に捉えたばかりでありましたが、もう一度先ほどのエレベーターの前に戻ろうと思いました。
でも、よく考えましたら、やはり守秘義務などもあるわけですから、そう簡単に色々なことを教えてくださるわけでもないのでは、とも思えたのです。
戻るべきか。
やめておくか。
そもそも本当にあの女性の方は探偵なのか。
もしかしたら刑事さんの可能性もあるかも。
でもなぁ、失礼ながら外見からはそのような職業の精悍さは感じなかったし…。
いや、ところがということもあるかな…。
普段はそんなオーラを隠してあたかもただのデパ地下巡りをしている主婦の方を装いつつ、犯人を油断させていざその時がきたら急に刑事さん全開になるのかもしれない。
実は、ぐるりと回転して転倒する直前にも、大勢の捜査員の方々の前で「必ずホシをあげる!」と力強く宣言していた可能性もあるし。
だとしたらやっぱり協力した方がいいのかな。
すでに、エレベーターで逃げて行った人物が上の階で何かの騒ぎを起こしていたら大変だ。
でも、そうなると、このデパート自体に危険が及ぶかもしれない。
そ、そんなことになったら、あわわ…、佐藤、本来の用事のための目的地に向かえなくなるかもしれないぞ…!
と、なりまして、はい、色々と想像やら妄想やらをしてみたのですが、結果的にはそのまま地下食料品売り場を歩き続け、ある牧場で作っているサラミを発見してものすごく惹かれたものの、お伝えしたようにバッグも何もない佐藤は気になる気持ちを抑えながらデパートを出たのでした。
あれこれ書いてきたものの、おそらくは、佐藤が見たのはシンプルにエレベーターに間に合わず転んでしまった場面であったと思われます。
なぜそんなに急いでいたのかとか、回転したのはどうしてかですとか、その謎はやはり謎のままではありますが…。
皆様も、エレベーターの乗り降りなどには十分にお気をつけください。
決して駆け込んだりせず、また、エレベーターの中にいる際には他に乗る方がいないかの確認をし、安全に使用しましょう。
佐藤の場合、基本的には余裕を持つようにしており、際どい場面では早めに諦めて次を待つようにしております。
まぁ、そうは言いましても、ある時は手に持っていた出来たてのたこ焼きを気にしながらギリギリのラインでエレベーターに乗り込んでしまい、しっかりと完璧にドアに挟まってしまったことはあるのですが…。
かつて「スーパーダッシュ」と自他共に呼んでいた加速力は今はもうありませんが、これを少しでも取り戻していくべく、フィジカルコンディションは向上させていくつもりです。
同じようなことを昨年の同時期にも書いた覚えがあるものの、ではこの1年間での身体的な変化はどうなのかと言いますと、それはもう、皆様のご想像にお任せいたします。
すぐにわかってしまいますね…。
「必ずホシ(体重)を落とす!」
と、ここだけで宣言し、本日のブログといたします。
それでは。