明日からは4月となります。
いよいよ本格的な春、という感じがしますね。
1ヵ月半ほど前までは寒くて道幅も狭く、あちこちが真っ白だったのに、今ではすっかり日常生活の中で雪を目にする機会もなくなりました。
佐藤の自宅の庭においても、冬の間に積み上げた雪は何もせずそのままにしておいたのですが、どんどんと少なくなっていき、先週末にはきれいになくなっていたのです。
これは、心から歓迎すべきことであり、暖かくなっていることの証明であり、大変素晴らしいことだと思います。
が、しかし、何でしょう、これ、毎年のことなのですが、庭の雪が僅かになった時というのは、一抹の寂しさを感じてしまうのです。
また、歩道の端に寄せられた雪がほんの少しだけ残っているのを見ると、なぜだか心の中では「がんばれ…!」という言葉すら出てきてしまいます。
冬の始まりには雪が降ってきたことに対して「あぁいよいよか…」と諦めにも似た気持ちになり、
積雪となれば「ついにきちゃったな…」と一面が白くなることに対して残念な思いが出てきて、
大雪になれば「この辺でやめてくれ…」とそれ以上に降り続かないことを願い、
2月の後半に雪が降ると「もうそろそろいいだろう…」とうんざり感でいっぱいになるのに、
どういうわけか、この時期まで残った最後の雪に対しては、本格的な冬のシーズンとは違った思いになってしまうのです。
先週、佐藤は一人、ごく僅かに残った自宅の庭の雪を見て色々なことを思い、想像いたしました。
佐藤:「いよいよ全ての雪がなくなるな。今見えている雪は昨年の12月頃に除雪した時のものか。思えば、今シーズンの冬はどうなるか、そんなことを考えながら雪かきをしたっけなぁ」
残った雪:「前回に比べれば、この冬は楽だったでしょう?去年の今頃は、この庭にはまだまだ雪が残っていたはずです」
佐藤:「確かに。前回シーズンはあまりに多い雪だったから本当に困ったよ。かと言って、今年が楽だったかと言われれば、そうでもないとは思うけども…」
残った雪:「まぁ、いいでしょう。その年によって大雪の時、そうでもない年、色々ですが、どのみち私達は春が来れば全て消えてしまうのです」
佐藤:「それは、そう…、だね。毎年のことだからなぁ」
残った雪:「多くの人達にとって私達雪は厄介者でしかありません。特に、この地域のような住宅街において雪が降ることを歓迎する人などいないでしょう。春になった今のこの状況、たくさんの人達が喜んでいるでしょうね」
佐藤:「正直なところを言わせてもらうと、その通りだと思う。みんな、本格的な春の訪れを喜んでいるよ」
残った雪:「それは理解しています。ただ、冷静に考えてみてください。北海道に雪が降らないような事態になったとしたら…」
佐藤:「う~ん、シンプルにありがたいけど、それはそれで困ることもあるだろうね」
残った雪:「当然です。雪が降らないことで困る方々もたくさんいます。雨だって、暑さだってそうです。それらがないと育たない作物もありますし、大変な思いをする方々はいるのです」
佐藤:「それは…、わかっているつもりだけども…」
残った雪:「そもそも、雪国で一切雪が降らないことになったら、その時はこの地球(ほし)は異常事態ということですよ!」
佐藤:「う、うん、それもよくわかるよ…」
残った雪:「そうです、だから簡単に、雪なんてない方がいい、冬なんか来なければいいのに、四季じゃなく春夏秋の三季でいい、雪はダメだ、雪は邪魔だ、雪という存在自体が必要ないなんて言わないでください!」
佐藤:「な、何もそこまでは言ってないけど…」
残った雪:「じゃあ、雪があることで良いこと、何か挙げられますか?」
佐藤:「えっ!?雪があることで良いことかぁ…、う~ん…」
残った雪:「ほら、何も思いつかないほど雪なんてどうでもいいんじゃないですか!」
佐藤:「違う違う、え~と、ほら、あれだ、寒いと鍋が美味しく食べられるよね。夏だと汗だくになっちゃうからさ」
残った雪:「それは雪に対してではなく、寒さに対してですよね?雪なんて少しもなくたって、寒ければ温かいものが美味しくいただけます。それに、佐藤さんはどんなに寒くても、鍋なんて食べたら結局汗だくになってるじゃないですか」
佐藤:「それはまぁ、そうなんだけど…」
残った雪:「やはり、雪があることでの良さは一つもないんですね?もう、これから全て消え去ってしまう私は、何も役に立っていないと思いながら静かに姿を消せばいいんですね」
佐藤:「い、いや、待ってくれ、まだある、あるよ。そうだ、歌、歌がある!」
残った雪:「歌?歌ってなんですか?」
佐藤:「ほら、やっぱり雪があるからこそ似合う歌もあるじゃないか。佐藤であれば、Winterでagainな曲は昔から大好きだから、雪が舞う空を見上げながら歌うのは最高だよ」
残った雪:「本当に?本当にですか?このお庭で、ご近所さんの目もある中で、本当に空を見上げながら歌っていますか?」
佐藤:「うっ…、まぁ、なんというか、その、あれだね、ごくまれにほろ酔いの時くらいしかこの場所ではそういうことはしない…。でも、車内では熱唱するよ。やっぱり雪が降っている時の方が圧倒的にこの歌は似合うからね」
残った雪:「そうですか。…まぁ、よしとしましょう。では、他には?」
佐藤:「えっ、他に?う~んそうだなぁ、あとは~、運動、かな。雪が降れば雪かきが必要だから、体を動かす良い機会にはなるよ。運動不足の佐藤にとっては、ありがたいことだと思う」
残った雪:「なるほど、それは確かに役立っているのかもしれませんね。除雪で使うカロリーはなかなかだと言いますし」
佐藤:「そうだよ、おかげでほどよく汗をかいて、冬の間のフィジカルコンディションは保たれていたと思うな」
残った雪:「それならば良かったです。本格的に動き始める時期が来る前の準備運動にもなっていたということですね?」
佐藤:「そうそう、そういうことだよ。この庭の雪かきはキャンプみたいなもので、今シーズンを戦い抜くための体づくりをしているっていう感じかな」
残った雪:「何のシーズンのことかはさて置き、そのように思っていただけたのならば良かったです。来年はさらにハードに体を追い込めるように、張り切ってみます」
佐藤:「いや、いやいやいや!いいの、いいんだよ、そんなにがんばらなくて!ほどよく、ほどよくで!キャンプ中にケガしたら大変なんだから」
残った雪:「そうですか?特にこの数年は外出機会が少なくなって運動不足の方々も多かったでしょうし、雪かきが健康につながっているのならば来年はもっともっとと思ってしまうのですが」
佐藤:「いや、ダメダメ!それは絶対にダメ!あまりにやり過ぎ、いや、降り過ぎは良くないよ、本当に。雪かきで疲れが蓄積するのはいけないから。それに、きっと次の冬にはみんなあちこち外出してこれまでほどは運動不足にはなっていないはずだよ」
残った雪:「では、例年通りくらいに、が一番なんでしょうかね」
佐藤:「え~と、まぁ、そうだね。いや、色々困る方々がいるのは十分承知してるけど、全く降らないわけにはいかないのだけど、やや少ないくらいにしてもらいたい。できれば、例年よりもけっこう少ないのがベストだ。そして降るタイミング、毎日ではなくとか、その辺が大事だよ」
残った雪:「なるほど、タイミングですか。それもそうかもしれませんね」
佐藤:「頼むよ。次の冬はドカ雪連続とか、それはお願いだからなしで」
残った雪:「少し考えてみます。さて、そうこうしているうちに、私達雪が雪としていられる時間も少なくなってきました。あとは水となり、土の中へとしみ込んでいくだけです」
佐藤:「なんか、例年それがちょっと寂しいんだよな…。雪がちょっとだけになって、気づいたらなくなってて、水の跡だけがあるというね…」
残った雪:「そんな風に思ってもらえると嬉しいです。きっと、その思い、優しさが生粋の道産子なんですよ」
佐藤:「そう、なのかなぁ…」
残った雪:「雪や雪かきの印象は強いものですが、実は1年のうちでは約3ヵ月ほどのお付き合いです。また、しばらくは雪を間近に見ることはないでしょうが、どうか忘れずにいてください」
佐藤:「もちろん、決して忘れることはないよ」
残った雪:「ありがとうございます。ではまた約9ヵ月後にお会いしましょう」
こうして、佐藤家の庭に残った最後の雪は姿を消しました。
佐藤は、切ないような、ほっとしたような複雑な気持ちで土の中に流れていく水を見つめます。
そして、空を見上げ、手を広げてみました。
佐藤:「いや、やっぱりあの曲は雪が降る時にしておこう」
そう呟くと、佐藤は春の心地よい風に優しく背中を押されながら、間もなく任期満了となる町内会の班長としてのお仕事に向かったのでした。
と、いうことで、いきなり残った雪との会話になったわけですが、いかがでしたでしょうか?
当初はこのようなスタイルにするつもりはなかったのですが、書いているうちにどんどん会話が出てきましたのでそのまま続けてみました。
念のためお伝えしておきますと、このお話しは、あくまでも佐藤が感じていることを基にしたフィクションです。
当然ながら、佐藤に雪の声は聞こえておりませんし、庭で一人ぶつぶつと会話をしていたわけではありませんのでご安心ください。
ただ、この時期に感じる残った雪への思い、気持ちは綴った通りとなります。
できることならば降ってほしくない雪も、いざなくなると思えば切ないものです。
それでも、たった9ヵ月後にはまた雪かきの日々がスタートしていると思うと、う~む…、という感じではありますが…。
皆様は、残り僅かとなった雪を見て、佐藤のように何か感じられることはありますでしょうか。
素敵な想像、おもしろい妄想などありましたら、ぜひお会いした際にはお聞かせください。
ようやく春らしくなった庭なのに、よくよく見てみましたらすでに草があちこちに何本も生えてきておりました。
今はまだなるべく視界に入らないように目を背け、いえ、確認する時間がありませんでしたが、おそらく自宅の外周も同様の状態となっているはずです。
そう、今度は草むしりのシーズンが始まります。
それはすなわち、暑さと筋肉痛と虫との戦いなのです。
庭は佐藤を休ませてはくれません。
しかし、その季節ならではのことは常に楽しみ、どんなことも何らかの役に立っているはずとポジティブに捉えて過ごしていきたいと考えております。
ただ、草むしりを手伝ってくださるという方がいらっしゃいましたら大歓迎いたしますが(笑)。
明日以降は新生活がスタートしたり、新しい環境での日々が始まるという方も多数いらっしゃるかと思いますが、まずはリラックスして4月を楽しみましょう。
それでは。